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債務者が使える商品が極めて少ない銀行

表題にある「使える商品」とは運用商品のことではありません。その逆の調達のための商品、つまり各種ローンのことを指しています。おカネに困って銀行からカネを借りたい人のための商品、ローンが極めて少ないのです。おカネに困っていない裕福な人のための商品やローンは山ほどあるというのに、です。まさに銀行は「雨の日に傘が必要な人から傘を取り上げ、晴れていて傘が不要な人に傘を差し出す」行為を地で行っているといえましょう。社員が一〇人以下の企業は「零細企業」と呼ばれます。中小企業が概ね社員数千人以下を指すのに対して、中小の中でも極めて小さな会社が零細企業です。

個人事業者とほぼ同義と考えてもよいでしょう。この零細企業、個人事業主に対する金融の門戸は、現在ではほぼ閉じられているといっても過言ではありません。年商が一億円の企業なら、その三ヵ月分に相当する三千万円くらいは簡単に借りられるかもしれませんが、年商が一千万円となると三百万円の借入は容易ではありません。メガバンクはいうに及ばず、地銀や信金でも利益額や担保の有無をしつこく尋ねてきます。日本政策金融公庫(以下、金融公庫)という公的な金融機関がありますが、おそらくラーメン屋さんや蕎麦屋さんにカネを貸している唯一の金融機関ではないかと思われます。

金融公庫の多くの借り主が数百万円の売上規模だそうです。中小企業金融公庫(以下、中小公庫)という別の公庫もありますが、一千万円以下の年商の借り主はないと窓口で聞かされました。ここで取り上げるマイクロファイナンスは、こうした零細事業者や零細個人のために存在すべき金融です。マイクロファイナンスと言わず、マイクロクレジットとかソーシャルレンディングと呼ぶ人もいます。これらの定義は後に行うとして、問題は、かつては門戸が広かった日本の金融機関が顧客を厳しく選別していることなのです。年商が一千万円ほどの会社で一千万円の給与が取れるはずはありません。

それがわかってか、わからずか、この行員は住宅ローンを知人に勧めました。銀行の方針が「住宅ローンを取れ」だったとしてもこれはあまりに不適切です。ことほど左様に零細企業にとって銀行は鬼門となっています。よくてこのように実質的な門前払い、悪い場合には「来るな」といわれるに等しい説教を食わせられることになります。それでも多くの個人事業主にとって、会社の財布と個人の財布は共有されていますので、個人としておカネが借りられるうちはまだよいのです。しかし、不況の連鎖で会社の売上が落ち、個人の収入も減ると銀行の要求を充たすことが難しくなってきます。

不況やリストラで真つ当なサラリーマンが失業

一般サラリーマンの失業者は、被災地においてすでに一〇万人以上にのぼっていることから、農林水産業に従事している自営業者、被災地以外で解雇される人々を含めると二〇万人、三〇万人といった規模になる可能性があります。以下の記事をご覧ください。「被災三県の失業者一〇万六千人 今後も増える見込み」厚生労働省の二〇一一年五月一三日の集計によると、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の三県の失業者数は計一〇万六四六一人に達した。集計方法が違うために単純に比較できないが、三県の労働局のまとめでは四月下旬時点で計七万人だった。把握しきれていない失業者も多いと見られ、今後も数は増えそうだ。

(中略)地震や津波の被害が大きかった地域では、まだ(離職票・休業票の)準備に手が回らない事業主もいると見られる。県別では岩手が二万二八五三人、宮城が四万六一九四人、福島が三万七四一四人。合計では前年同期の二・四倍にのぼる。同じ期間に実際に失業手当の受給が決まったのは、六万四三八九人で前年同期の三倍だった。これらの 字には、農業や漁業などの個人事業主の失業者は含まれていない。(二〇一一年五月一八日付「朝日新聞」より抜粋、編集。傍線は著者による)三・一一の大震災後二ヵ月でサラリーマンだけで失業者が一〇万人となると、半年後、一年後にはさらに増えると予想されます。

しかも被災三県だけでなく、隣県を含めると東日本全域で相当数の失業者が今後も出てくることはほぼ確実です。これに統計のない一次産業従事者、自営で失業した人を含めると三〇万人といった数字に達しても不思議ではありません。脅かすつもりでこうした数字を出している訳ではありません。復興需要に伴う新たな雇用も生まれることでしょう。しかし、こうしたプラス要因を勘案しても、一定期間(できるだけ短いほうがよいのですが)、大震災失業が経済に与える影響は相当なマイナスであると考えられます。大震災に伴う各地での自粛ムードも景気を冷やしました。こうした短期的要因に加えて、「失われた二〇年」と呼ばれ始めた日本の長期不況は、個人や個別企業のレベルで「多重債務者」という問題を引き起こしています。いろいろなところから借りて返済がままならず、にっちもさっちも行かなくなっている人のことです。

こんなデータがあります。二〇〇八年度の多重債務相談件数は四一二〇件と○五年度の五六四九件や○○年度の七八一一件よりも減少していますが、その金額が小口化しているのと理由に生活費と失業、倒産を挙げる人が急増しているのに驚かされます。相談金額が二百万円未満の比率が二七・九%と○○年度の一四・七%から倍増しています。理由についても生活費ほかが六二・九%、失業・倒産ほかが四六・七%と従来にない高比率となっているのです。遊び歩いている訳ではなく、収入が激減したためにサラ金などに頼らざるを得なくなった実態がよくわかります(日銀のウェブサイトより。元データは日本クレジットカウンセリング協会による)。

しかも多重債務者が若年層から熟年層に移ってきているという暗いデータもあります(引用元は同上)。一九八七年度から九四年度の平均では、多重債務者の年代構成は二〇代が四七・二%、三〇代が二七・三%、四〇代が一四・五%、五〇歳以上が一一・一%であるのに対し、二〇〇八年度ではこの数字が、順に二二・四%、二五・〇%、二五・一%、二七・五%と逆転しています。かつての「多重債務者=遊び人」という図式がもはや当てはまらなくなっており、真っ当なサラリーマンや個人事業者が勤め先の倒産や解雇などにより、破産に追い込まれているという状況が浮かび上がってきます。マクロ(大きな経済現象)の話はこのくらいにして、ミクロ(日常レペルのおカネの出し入れや「懐具合」)の話に移りたいと思います。

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