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日本におけるマイクロファイナンスの具体的事例

もう一つだけ日本におけるマイクロファイナンスの事例を示します。近畿地方の二府四県(大阪、京都、奈良、滋賀、和歌山、兵庫)に在住、在勤する被雇用者(サラリーマン)を対象とする労働金庫、近畿ろうきんの「ふれ愛」ローンです。失業や収入激減といった事情の場合、借り入れることは難しそうですが、過去三年にわたり百五十万円の年収があり地域で勤務していれば対象となるようなので、参考になりそうです。「ふれ愛」ローンには組合員向けと一般勤労者(非組合員)向けとがありますが、ここでは後者をご紹介します。

一八歳以上で返済時に七六歳未満であることが条件ですが、返済期間は最長一〇年なので、五五歳で借りる場合、六五歳で返済すればよく、利便性が高いように思います。勤労者でなくても個人事業者なら借りることができます。金額も三百万円とある程度の額を借りられます。近畿二府四県に在住しているか在勤していることが条件で、いずれも一年以上であることが必要となります。資金使途は医療・歯科治療、結婚、育児、葬儀、高齢者介護、災害復旧など多岐にわたります。年収の条件が百五十万円以上(借入直前年)、しかも過去三年の年収を提出しなければならないというのが失業者には厄介です。

しかし、低収入でもそれが安定している人には使いでがありそうです。金利は市場金利とありますが、おそらく五%を超えることはなく、日本政策金融公庫などのローンの金利に準じるものと思われますことなると二%から三%程度でしようか。保証人は原則不要ですが、日本労働者信用基金協会による保証が条件となっているので、これが一つのハードルです(以上、近畿ろうきんの二〇一一年六月一九日現在のホームページを参照)。公的な金融機関(ろうきんもその一つ)は金利が安いので、検討する価値がありそうですが、条件に柔軟性がないのがやや難です。

また生協による融資については、生協組合員に原則、誰でもなれるので(地域生協の場合は、在住、在勤などの条件がつきますが)、利用したことのない人は職域や地域の生協で同様の仕組みがないか調べてみる価値がありそうです。では純粋な民間によるマイクロファイナンスの現状はどうなっているのでしょう。それはさきで論じることにして、少し回り道をしてみたいと思います。マイクロファイナンスとはあくまでも融資で、返済を必要とします。それに似ている、あるいは似ているようで違うファイナンスの仕組みについて若干論じてみたいと思います。

「生活再生貸付事業」とは

マイクロファイナンスと呼ぶか、ソーシャルレンディングとするのかは別として、日本でも先述の米国や英国のように小口金融を従来の金融機関を介在させないで行おうとする動きが出ています。その背景には長引く不況による個人の可処分所得の減少、中小企業の業績悪化と銀行による貸し渋り、貸し剥がしがあります。たとえば、グリーンコープ生協ふくおか(ほかに、おおいた、長崎なども)は「生活再生貸付事業」という名前で、営利目的ではない、組合員の経済情勢や生活上の悩みを解決するマイクロファイナンスを行っています。生協のホームページによれば、借金以外の小額の「生活費」の貸出を十万円から百万円をメドに実施中です。「生活費」には家賃、水道光熱費、税金などが含まれます。授業料や給食費なども入るかもしれませんが不明です。

この貸出の目的は、生活再生ができるようにすることで、借金返済を終えた組合員を対象としています。借金返済は別の枠組みで行ってほしいということだと理解できますが、生活費として貸した資金が借金返済に回り、組合員の生活が一向に楽にならないことを防止する目的もあると想像されます。年利は九・五%と高めですが、カードワーン金利が一〇%を超えている現状では、高利とはいえないかもしれません。貸付の上限は百五十万円前後とされています(以上、グリーンコープ生協ふくおかの二〇一一年六月一九日現在のホームページを参照)。

またほかの生協でもこんな動きがあります。被災地に位置する岩手県にある、いわて消費者生活協同組合などが提供する「スイッチローン」(消費者救済資金貸付制度)や「生活再建資金」ローンは、地域限定とはいえ、突然の失業や被災で困っている個人や事業主にとっては一つの朗報です。スイッチローンは、多重債務者が対象で、五百万円以内で借りることができます。金利は年九・二六%から一〇・九六%(変動。二〇一一年六月現在)ですが、別途四・九五%相当の弁護士費用がかかります。最長一〇年まで借りることができますが、連帯保証人が一人以上必要です。

岩手県内居住者もしくは在勤者しか借りることができません。生活再建資金ローンは、自己破産などにより債務整理を行った個人がどこからも借りることができないことに対応するもので、医療、冠婚葬祭、引っ越しなどの費用をまかなうためのものです。借入額は百万円以内で、金利は年八・八%(変動。二〇一一年六月現在)、最長六年まで借りることができます。連帯保証人が一人必要です。スイッチローンと同じく岩手県内および青森県八戸市在住もしくは在勤の二〇歳以上の人に限られます。ほかには「被災者支援つなぎ融資」などもありますが、ほかの地域に住む読者には関係がないので割愛します(以上、いわて消費者生活協同組合の二〇一一年六月一九日現在のホームページを参照)。

米国のソーシャルレンディングNPO

借り手、貸し手(投資家と呼んでいますが、実際の貸し手がプロスパー社であり、その資金を裏で投資家が提供しているからでしょう)もウェブサイト上で、自分の条件に合ったローンや貸出(投資)条件を探し、サイト上でマッチングをさせるという点が従来の銀行とは大きく異なっています。プロスパーほかのソーシャルレンディングを営利目的で行っているところは、自らは銀行ではない、借り手と投資家の仲介者であるという立場を取っているように思えます。米国ではほかにもソーシャルレンディングを行っている企業やNPOが数多くありますが、次に英国の事例を取り上げます。

ソパ社(Zopa、ゾーン・オブ・ポシブル・アグリーメントの略)といいます。プロスパー社と同様、二〇一一年六月一五日現在の彼らのホームページから概要を探ってみます。「貸し手と借り手が集う場」と題した会社概要は、貸し手にはよいリターンを、借り手には低金利を可能にすると始まり、銀行が介在しないことを明確にしています。創業は二〇〇五年、ロンドンにオフィスがあり、二三人が働き、「二〇一〇年マネーワイズ・アウォーズ」で、個人ローン提供者としてベストの票が集まったとしています。

質疑応答のコーナーで、借入可能金額は千ポンド(一ポンド百三十円換算で、十三万円)から一万五千ポンド(約百九十五万円)まで、期間は一年から五年まで、借り手は事前に自分の信用評価(最高がA*)を知ることができ、金利は市場に委ねるような曖昧な表現になっています。ソパの信用評価は独自のもののようです。過去に自己破産をしたり、返済に遅れが出たりして信用が低い借り手は、ソパ経由ではおそらく借りることはできないだろうと警告しています。また、手数料として百三十ポンド(約一万七千円)を取ることも表示しています。英国における貸金業者であるといっています。借り手は一八歳以上で、英国で三年以上のクレジットヒストリー(信用歴)がなければならないとしています。

自分の口座をソパで持つと貸し手が誰で、それぞれいくら貸してくれているかが表示されるといいます。米国のプロスパーは「投資家」、英国のソパは「貸し手」とそれぞれ違う表現をしていますが、資金の出し手であることに変わりはなく、銀行に預けたり、証券を自分で買ったりするよりも有利な条件で資金運用ができると述べています。一方、借り手には銀行や消費者金融会社よりも手続きが簡単で、低金利であるとして、貸し手、借り手の双方にとって魅力のあるマーケットプレース(インターネット上の市場)であると呼びかけている状況です。

米国最大手のプロスパー社とは

先述のオークランドでの試みは、地域を限定し、銀行とNPOの両方を使って、低所得者層に住宅ローンを提供している事例ですが、広く米国全体を見渡すとソーシャルレンディングを行っている企業が数多く存在します。そんなソーシャルレンディングの最大手は、プロスパー社だといわれています。文字通り、借り手も貸し手も栄えることを目的としているようですが、会社のホームページから以下のような概要であることがわかります。一〇八万人以上が参加し、二億三千七百万ドル(約百九十億円)の貸出残高のあるプロスパー社は、世界最大のピア・ツー・ピア・レンディング企業です。財務的にも社会的にも見返りのある投資を個人が互いに行うことを可能にしています。

借り手は二千ドル(約十六万円)から二万五千ドル(約二百万円)の範囲で借りることができ、投資家は最低二十五ドル(約二千円)の単位で借り手を選ぶことができます。信用スコアリングや評価、借り手の過去の借入に加えて、投資家は借り手の友人からの評判なども聞くことができます。プロスパー社は借り手と投資家のマッチングを行い、ローンを貸し出し、その管理を行います。イー・ローン社の共同創業者であるクリス・ラーセンによって設立されたプロスパー社はベンチャーキャピタルなどから五千七百七十万ドル(約四十六億円)の資金を集めました。続けて、プロスパーが固定の低金利のローンを提供することを謳い、審査も迅速に行うことを約束します。借り手に対しては情報の秘匿を約しながら、貸し手に対して情報開示を好きなだけ行えるといいます。

借り手は、自分に関する基礎情報をプロスパーに提供し、借入可能な金利と条件を調べ、それに見合う貸し手があれば資金が借り手の銀行口座に入金されると説明します。以上に加えて、借り手の払う金利は年率七・四%でよいと思わせるような表記がウェブサイトにあります。一方で資金の出し手に対してはヽ年率一〇・四%という数字をウェブサイト上で見せ、以下のような割のよい投資であるとアピールしています。プロスパーの市場は大きく、貸すに足る借り手に溢れており、投資家に最低限の努力でいくつものローンを出すことを可能にします。高い利回りが隠れた費用や手間なく約束されています。プロスパーを使うと、投資家は好きなリスクとリターンを選べます。借り手は事前に審査された良質な人々です。誰に貸すかの透明性があります。

投資基準を自分でコントロールでき、投資ポートフォリオが多様化できます。そして、顔の見える投資が可能になります。こう述べた後、共同創業者・経営最高責任者であるクリス・ラーセンについては、その経歴が以下のように説明されています。プロスパー社は、ラーセンのインターネットを使って消費者金融をより効率的に、透明性と信頼性を高くするという理念の延長線上にあります。ラーセンは前職で、イー・ローン社の共同創業者であり会長でしたが、彼の指揮下、イー・ローンは米国で最も信頼される消費者ブランドになりました。FICOスコア(発明社であるフェア・アイザック社にちなんでFICOといわれている、信用スコアのこと)を一般に広めるのに貢献しました。彼はいくつかの公職についていますが、サンフランシスコ州立大学(学士)とスタンフォード大学(修士)を卒業しています。

地域と環境維持のための銀行業

二〇一〇年一二月にワン・カリフォルニア銀行はショアバンク・パシフィックを買収し、名前をワン・パシフィックコースト銀行(以下、OPCと略)と変えました。この買収により、一九九七年にコミュニティバンク(地域共同体に奉仕する銀行)としてワシントン州で開業したショアバンク・パシフィックの理念も受け継ぎ、OPCは米国西海岸で広く活動を行うことができるようになりました。預金が一定額まで保証されており、連邦法に基づく銀行であるOPC(米国ではほかに州法に基づく銀行もあります)は「トリプル・ボトムライン・アプローチ」という手法に基づき、地域と環境維持のための銀行業を行っています。

OPCは経済の成功に健康な環境は不可欠のものと考えます。また公正、透明、持続可能な銀行商品やサービスを提供することで地域社会の変化を促すことができると信じています。これが私たちの使命(ミッション)です。私たちの理想とする銀行業のあり方は、最も交渉力の弱い人々、特に従来最も銀行から遠ざけられていた人たちに、私たちが活動する地域すべてにおいて、金融サービスの道をひらくことであり、責任感のある顧客に長期的な繁栄をもたらし、金融制度を安定化させ、共有財産である環境を維持することです。これを「ペネフィシャル・バンキング」と呼んでいます。顧客との対話の中で、今後一〇〇年を見通して同じ事業が営めるかなども尋ねます。

米国西海岸という地域性を考慮して、特殊農業(環境改善に益する農業)および農産品加工、自然エネルギー、オフィスのグリーン化(環境適応、省エネルギー)、低所得者向け住宅取得などの用途に使われるローンを提供します。(中略)地域共同体の繁栄が重要であるとの認識に基づいて、預金やローンから上がる収益の一部を地域活動などに寄付しています。(二〇一一年六月一七日現在のホームページから抜粋、編集)二〇〇七年の創業時は「低所得者向けの住宅取得」に主眼が置かれていたと記憶していますので、現在(二〇一一年夏)は、環境や新エネルギーなどに重点がシフトしているように思えます。

リーマンショックやその後の不況や失業の発生により、貸倒率が高まったこと、低金利とビジネスを両立させるモデルが稀であることなどが原因かもしれません。低所得者層向け住宅融資に関しては、財団がOPC(銀行)の株主になっており、ホームページでも財団への言及があるので、OPC財団が別途、これを行っている可能性もあります。ホームページだけからは、銀行が定めている金利のレベルや貸出金額の上限、あるいはグラミーン銀行が義務付けている各種条件などがハッキリしなかったため、創立者であるテイラー女史に問い合わせを行いましたが、返事がなく、ここでの分析がかなわなかったことを付け加えます。

カリフォルニア州オークランドでの挑戦

銀行がマイノリティ(人種的少数派、黒人、ヒスパニック、ネイティブ・アメリカンなどの人たち)に対して、マジョリティである白人に対する基準より厳しく貸し付けている実態が明らかになるとアファーマティブ・アクション(少数派が不利にならない各種の施策)の一つとして、銀行のマイノリティ向けの融資残高や融資比率などが是正の対象として注目されるようになりました。一九六〇年代から始まった動きですが、私、津田が米国に駐在していた八〇年代でもまだ不徹底である(つまり、マイノリティは借り難い)といわれていました。具体的にはこんなことです。

一般的な白人家庭(夫婦共に白人で、子どもが二人)なら年収が五万ドル(一ドル八十円換算で、四百万円)でその五倍である二十五万ドル(約二千万円)のローンを借りることができるのに対し、マイノリティの家庭(夫婦共に黒人で、子どもが四人など)は年収が十万ドル(約八百万円)ないと貸してもらえない、といった具合です。実際には十万ドルの年収があるマイノリティの家庭は極めて少ないので、通常の銀行から借りることができず、ほかの金融業者や不動産業者に頼ることになるのです。これがサブプライムローンといわれる高金利商品(借り手にとっても、投資家にとっても)の実態の一面です。

サブプライム(準優遇金利)といいながら、その実態はプライムレート(最優遇金利)よりも一〇%も高い金利を払わされていたマイノリティ家庭が、失業や年収の減少、あるいは生活費の高騰などにより、元利金の支払いを滞らせたのも無理のないことです。デフレの時代の一五%(ドルでも円でも)というのは立派な「高金利」ですから。こうしたマイノリティに対する実質的な差別をなくそうと、いくつかの試みがなされてきました。キャサリンニアイラー女史はマイノリティが住宅ローンをなかなか借りることのできない状況に業を煮やして、自ら貧しい人たちのための金融機関を作ることを思い立ちました。

NPOである財団が株式の一〇〇%を所有している銀行、ワン・パシフィックコースト銀行(設立時は、ワン・カリフオルニア銀行)です。以下、ホームページをもとにこの銀行の概要(直訳ではなく意訳)をご紹介します。ワン・パシフィックコースト銀行は、キャサリン・テイラーとトム・スタイヤーによって、持続可能でコミュニティ(地域共同体)にとって意味のある銀行とそれを支えるNPOを作ろうという意思から生まれました。これは、二〇〇七年にカリフォルニア州オークランド市で、ワン・カリフォルニア銀行とワン・カリフォルニア財団として結実しました。

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